浪花グランドロマン 『愛の棲家』~大竹野正典アンソロジー~ (収録/劇集成Ⅲ)
●演出 浦部喜行
地図を売り歩くセールスマンと、ただ男を待ち続ける女の話。
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遠い電車に乗った夜
車中より町を見遣れば
一軒の窓の灯ありき
懐かしき人影動かず
其処に在り
切り絵の如く其は在りて
あれ在りし日の吾の影に
泪そそぎて想いぬれば
誰ぞ棲む
あれこそ我が家
遠い電車に乗った夜――
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●出演 関角直子 出本雅博 中谷仁美 めり
2019年11月9日(土)~11日(月) 会場:音太小屋改メT-6(テシス)
※公演は無事終了いたしました。
◎稽古風景◎
関角直子
出本雅博
中谷仁美
めり
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(当日パンフレットより)
演出挨拶
テント芝居をたたんで、しばらくなる。劇場芝居に馴染むため、最近は既成作品にも精力的に取り組んでいる。だが、今回の上演の意味は大きく違う。
個人的には、大竹野さんとは演出と照明という同じ作品を裏から支えるスタッフとして仲間だったと自負している。もちろん、仲間というのはおこがましい表現だ。だが、糊口を凌ぐ仕事を持ちながら、自分のやりたい表現を続けている部分で常に共感するものがあった。平成の初めには「芝居か、就職か」などと判断を突き付けられるような空気感があった。その引け目が私にはあった。他方、大竹野さんは、そんな空気などどこ吹く風で、「やりたいときがやりどきよ」と嘯き飄々と芝居をされていた。若輩の私には羨ましく映ったものである。
演劇はある程度カネのかかる作業だ。やりたい時だけ演る、なんて贅沢がまかり通るはずもない、とも思っていた。実際に私の関わっていた大竹野さんの劇団、犬の事ム所はそれなりの予算をかけて公演していた。大きな企画の招聘もあった。やりたくないこともあるだろうに、と思っていた時に、大竹野さんは突然劇団を解散する。解散の直前の上演は今観ればとてもいい作品だが、当時としては、ただただ男の猟奇的な犯罪を描いた『ドアの向こうの薔薇』だった。観客は次々に眠りに落ちていく。今なら信じられない光景を僕は大竹野さんと一緒に照明として客席の最後列から眺めていた。
自分が面白いと思うものを演る。あの作品の時に、大竹野さんは確信したのだ。本人に確認する術はもはや無いが、私はそう信じている。
それ以降、私は大竹野演出に関わる機会は無かった。やりたい時に演る。これが大竹野さんのスタンスであり、その「無頼」と言えるスタンスに関係した人間は共感を覚える。
そんな人の作品を、下卑た考えしか持てない私が上演するのは、盗人が高僧の経典を説くようなものであり、気恥ずかしさしかない。とは言いつつも、作品を関った「仲間」としてと思ったのが、本日の公演につながっている。
たくさんの話題作がある中でなぜこの作品なのか、と問う人も居るだろう。この作品は大竹野さんが若い頃に年上の演劇人に依頼されて書き下ろした作品だ。しかも、演出は自身では無い。いわば他人にいじられることを前提に書かれた作品である。そう考えると、私にもアプローチしやすい。それがスタート地点である。そして、読み始める。あらためて、大竹野さんの世界が凝縮されていると感じ、いくつかの他作品のセリフもコラージュのようにちりばめた。不器用な男と、過剰な女。会話はまるで不条理劇のようだ。けれど、それが大竹野さんの生きている劇世界であるとあらためて実感する。この上演を少し変わった演出と感じる方もおられるかも知れないが、それも含めて私なりの大竹野さんに対する真剣なアプローチである。道半ばにしてこの世を去った仲間に興味を持ってもらえるきっかけになれば、私も格闘した甲斐がある。短い時間だが、噛みしめて何かしらを感じていただきたい。
2019年11月 浦部喜行
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